パナソニックIPマネジメントが取り組む
AIとの共創による知財管理業務の高度化とは?

パナソニックIPマネジメント株式会社

パナソニックIPマネジメントが取り組む AIとの共創による知財管理業務の高度化とは?
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パナソニックIPマネジメント株式会社

https://www.panasonic.com/jp/company/pipm.html

ポイント

パナソニックIPマネジメントの業務とAI導入の目的

  • パナソニックグループの知的財産を管理

  • 担当者の負担を減らし付加価値の高い業務に注力できるようAIを導入

AIモデルの活用と期待される効果

  • 「権利維持放棄判断モデル」「中間処理費用予測モデル」、「活用候補抽出モデル」の3つのAIモデルを活用

  • 業務の負担軽減や、費用予測の精度向上、特許活用の効率化に期待

AIとの共創における展望

  • 知財業務へのAI活用の幅を広げるための新しい取り組みに注力していく

AIとの共創で目指す
グローバル企業の知財管理業務の高度化とは

ーまず、貴社の業務について教えてください。

川崎様:パナソニックIPマネジメントはパナソニックグループ全体の知的財産に関する業務を取り扱っております。具体的には、国内外の権利取得や調査業務、取得した権利の維持・管理を行っています。また、他社への利用許諾や譲渡、譲受の業務も行っております。
私達が所属するインダストリー知財部は、パナソニックグループ内のパナソニック インダストリーに知財業務サービスを提供しております。パナソニック インダストリーは、電気部品や電子部品、制御機器や電子材料等の開発・製造・販売を行っている事業会社です。中でも、私達が所属しているインダストリー知財部 企画・管理課は、事業会社とあい対する権利取得担当者の業務がスムーズに回るように、案件管理やデータ分析に基づいた業務支援などを定常的に行っています。

ーなぜAI活用の取り組みを開始されたのか、その背景・きっかけについて教えてください。

川崎様:技術の進化など環境が変化する中で、事業の競争力を高めていくためには、知財業務の高度化が必要です。また、一般的にも、労働人口の減少がこれから加速していく中、一定のレベルを維持しながら少ない人数で対応していくことが求められています。
私たちの業務には、過度な個別最適化による非効率や、属人化が生じているところがある状態です。一方、知財業務をサービスとして提供するということは、経験値によらず、誰もが同じレベルで業務提供していくことが求められます。そのためにも業務を標準化して高度化する必要があります。標準化とAIの導入で、求められるレベルを保ったまま業務を遂行しつつ、権利取得担当者の工数削減に繋げられると考えています。
工数を削減した分、より付加価値の高い業務を事業会社に提供し、パナソニックグループの知財力を強化していきたいと考えています。そのような考えのもと、まずは、AIと相性のよさそうな管理業務において検討を開始しました。

パナソニックIPマネジメント株式会社 インダストリー知財部 企画・管理課 課長 川崎里子様パナソニックIPマネジメント株式会社 インダストリー知財部 企画・管理課 課長 川崎里子様

3つのAIモデルを駆使し、
業務の高度化と効率化に向けた取り組みを推進 

ーどのような業務内容のAIモデル化に取り組んでいますか?

米谷様:まず1つ目は、「権利維持放棄判断モデル」です。定期的に権利の価値を評価し、維持すべきか、放棄すべきかの棚卸しをする業務について、その判断をAIモデルで代替できるかということに取り組んでいます。
自社/他社の実施情報や残存年数などを説明変数として学習データを用意して、AnyData でモデルを構築し、InsideX から色々と専門的なアドバイスを受けながら精度向上をさせていきました。
2つ目は、「中間処理費用予測モデル」です。特許庁へ出願してから登録に至るまでにかかる中間処理の費用の予測を行うテーマに取り組んでいます。これまでは、前年度の実績を元に人手で算出していましたが、もっと予測精度を高めたいという考えから、AIによる予測を行いたいと思い取り組んでいます。
説明変数としては、社内の知財管理システムとして使っている「Anaqua(アナクア)」に登録されている中間処理の種類や国、費用実績などを使用しています。それらのデータを基に、InsideX のデータサイエンティストの方と、効果的な学習データの選定やモデルについて議論しながら検討を進めました。
井上様:3つ目は、「活用候補抽出モデル」です。権利の活用候補を抽出する取り組みで、2ヶ月ぐらい前から取り組み始めたばかりです。現在、自社保有の特許は技術者や権利取得担当者が複数の項目で評価し、毎年、自社独自の権利評価システムに評価結果を登録しています。その評価は多くの技術者や権利取得担当者が判定し評価が一定ではないという課題があり、人が活用候補の特許を抽出する際に多くの特許の内容を確認する必要があります。
その活用候補抽出をAIで効率化し、人が検討する特許の総数を減らし、特許一件に対しより深く人のリソースを割り当てられるようにしたいと考えています。

パナソニックIPマネジメント株式会社 インダストリー知財部 企画・管理課 ユニットリーダー 米谷彩様パナソニックIPマネジメント株式会社 インダストリー知財部 企画・管理課 ユニットリーダー 米谷彩様

AIとの共創により深化する知財管理業務

ー各業務では、どのような効果を期待していますか?

米谷様:現状の「権利維持放棄」は、評価対象の権利について技術部門が維持するか・放棄するかの判断、および様々な観点の評価情報を権利評価システムに入力し、知財部門がその入力を確認して維持または放棄の最終判断を含む評価情報を入力するという、二段階で行われています。特に権利取得担当者は、膨大な数の権利を短期間で確認し、その価値を評価することになるため、負担感が大きいです。そこで、AIモデルによる判断で問題ない部分をAIで代替し、評価対象を絞ることで業務負担を減らしていきたいと考えています。現時点では、対象案件の50〜60%の判断をAIで置き換えられると考えています。
また、技術部門も、経験が豊富な方ばかりではないため、権利の価値評価への見識が十分でないことに起因する評価のブレが発生し得ます。過去の実績に基づいたAIによる判断結果を技術部門にも共有するというステップを踏むことで、評価の質が安定することも期待しています。
「中間処理費用予測」の方は、パナソニックインダストリーの各事業部における予算計画の精度向上に成功したら、インダストリー以外の事業会社への展開を目指したいと思っています。精度向上の取り組みは個別にしないといけないとは思いますが、パナソニックグループ全体で共通の項目のデータが蓄積されているため、他事業会社での利用が現実的に考えられ、全体の効率化も出来るのではと期待しています。
井上様:「活用候補抽出」はまだ取り組みを始めてまだ日が浅いですが、権利取得担当者の経験の差や、技術分野の担当者の異動などによる専門分野の担当期間の差などがあった場合でも、AIに補助してもらって人が検討する特許の総数を減らし、本当に人にしかできないところを深く掘り下げることができれば良いと考えています。また、スピードについても、膨大な特許数にAIが対応することで、全体的な対応期間が短くできたら良いと期待しています。

パナソニックIPマネジメント株式会社 インダストリー知財部 企画・管理課 主任知財技師 井上喜代志様パナソニックIPマネジメント株式会社 インダストリー知財部 企画・管理課 主任知財技師 井上喜代志様

ー各業務で次に目指していることは何でしょうか。

米谷様:「権利維持放棄判断」は精度向上についてほぼ完了していますので、効果的な運用方法を提案したいと考えています。AnyData で出力された結果を、権利評価システムと、業務フローにどう反映するのかを検討し、運用変更を行いたいと考えています。運用変更について、関係部署への説明と理解を得る段階に差し掛かっていますが、ここが一番泥臭いところであり、モデル自体の精度向上とは違った頑張りが必要になる部分です。
「中間処理費用予測」については、パナソニックインダストリーの事業部においては予測結果の目標達成を見込めています。他の事業会社のデータでモデルを構築し、全社展開の可能性を探りたいと思っています。また、並行してInsideX のデータサイエンティストの方からスキルトランスファーを受けている最中ですので、そちらを確実に習得していきたいと思っています。
井上様:3つ目の「活用候補抽出」の方は、まだ取り組みが始まったばかりです。ようやくデータ処理に使える学習データの整備の目処がつきましたので、どうやったら精度が上がるのかを考えていく段階になります。

ビジネス人材が
AIモデル構築とデータ理解を深められた理由

ー各テーマに取り組んでみて、AIや機械学習への理解というのは変化がありましたか?

米谷様:昨年度からInside X と一緒に取り組む中で、機械学習を行う上で、必要となるデータやその規模、AIに適したデータ構造の理解も深まってきました。
髙橋:最後のデータ構造の理解が進んだという経験はとても重要な点です。正しいAI・機械学習の理解があれば、現場の生産性をあげることに繋がります。その上で手段としてソフトウェアを使うことで、さらに業務における価値が発揮できます。
また、テーマ設定における難易度も、「権利維持放棄判断」では、人の業務の置き換えが最初の取り組みになっていますが、「中間処理費用予測」では複数のモデルを駆使して、最終的に求めているアウトプットを出しています。難易度もその分上がっている中でも理解を深めつつ、新しいテーマに挑戦できています。
川崎様:検討を始めたころは、AIというと何でもできると思っていました。ただ、打ち合わせを重ねていく中で、元の持っているデータ以上の予測やそれ以上の結果を求めるのは人がやってもできないのと一緒と教えていただき、それがだんだんと理解できるようになりました。
米谷様:AIも色々ありますので、どういう使い方をしようとしているのかによって、できることの認識が噛み合わない場合があると感じています。魔法のようなイメージを持たれることも多いと思いますが、コンサルティングを受ける中で、単にデータを持ってきて、放り込めばできるような単純なものではなく、データをどういう目的でどう使うかを突き詰めて考えていき、チューニングを行うという丁寧なステップを経て、効果的に使えるようになるのだと分かりました。
髙橋:データを元に機械学習で学習してモデルを作った結果、推論結果を出すというプロセスを理解することが大事です。AIが現場で進まない理由についてもAIに対する正しい理解がまだできていないという要因があります。
同時に、精度についても、曖昧な理解のままイメージでKPIを決めている場合も多いため、急にどこかで乖離が生まれてしまい、現場での活用が進まなくなってしまいます。
その上で、正しいAI・機械学習を理解し、複数のテーマを扱い、目標達成されているパナソニックIPマネジメント社は、一歩先へ進んでいます。

AI inside 株式会社 InsideX Principal 髙橋蔵人AI inside 株式会社 InsideX Principal 髙橋蔵人

AIと知財部員との共創による更なる業務高度化へ

ーAI inside と一緒に取り組むことになった背景を教えてください。

米谷様:まず、元々社内のメンバーが、AI活用についての講演や記事でAI inside 社を知って、一緒に取り組みを行っていたのが最初になります。また、同じパナソニックグループの別会社の経理部門でも実績があったという点もあります。一番の決め手となったのは、当社が作った仕様書に基づいてシステム開発を行うという方針ではなく、業務改善について一緒に試行錯誤を繰り返し行いながらモデル構築の検証を一緒に作っていくプロセスを考えられていた会社だったことですね。そのような背景により、AI inside 社と今回の取り組みを始めることになりました。
米谷様:コンサルティングをいただいたデータサイエンティストの方には、非常に誠実なご対応をいただきましたし、専門性も高く信頼出来ました。また、検討初期の段階で精度もある程度出ていたので、継続してAI inside 社と一緒に進めていきたいと思った次第です。定例ミーティングではいつも、専門的な知見からのアドバイスを、我々に理解し易いようわかりやすく伝えてくださり、またデータ準備やモデル構築上の課題点の整理も一緒にしてくださるので、機械学習に対する学びを楽しみながら取り組めています。

ー今後、AI inside にどのようなことを期待していますか?

井上様:社内には権利評価システムと知財管理システム「Anaqua(アナクア)」というシステムにそれぞれ不随する二つのデータベースがありますが、それに加えて、WEBにある論文などの外部の一般的な情報を大量に取り込んで、AIが提案してくれるような仕組みがあったら良いなと思っています。例えば、知財においては、世間が注目し始めた技術分野について、他社と比較した自社の優位性の判定、自社知財の優位性確保に必要な費用、投入すべき開発者の数、などを提案してくれると良いなと思います。
AIが一番いいものを提示することは難しいと思いますが、候補を複数提示してくれることや、膨大なデータを元にした提案があると良いです。選択肢の幅も増えますし、人が判断するまでの時間も短くなるなと思っています。
米谷様:今、AnyData にインプットしているデータは数値や文字列からなるテーブルデータですが、AnyData が扱える画像データも関連させた学習ができれば、知財業務におけるAI活用の幅が広がるなと思っています。
髙橋:いわゆるマルチモーダルと言われるところですね。それはAnyData が得意とするところでもあるので、今後ご相談できればと思います。また、自分たちが気づかないものを気づかせてくれるような自律的に動くAIの開発も進めていて、データ構造などを意識しなくてすむ将来像もあるので、どんどんチャレンジングなテーマを一緒に作っていけたらと思います。
吉田:テーマの難易度と効果を3段階で表すと、人の業務の置き換えがわかりやすい一つ目のステップになると思います。次のステップとして従来人がやっていたような業務に加えてやり方を変えてAIと一緒に業務を行っていく。もう一つ上がると、人がやっていないような業務をAIに予測させるというステップになっていきます。
毎週のように新しい技術というのは世に出ていますので、以前できなかったこともどんどんできるようになっています。この先、御社でも、また新しいアプローチでのAI活用が進むと思いますので、引き続きしっかりとご支援していきたいと思います。

ーありがとうございました。

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